とる造
クロス取引の意味と、クロス取引をする理由を解説するぞい。
クロス取引とは、同じ数量の買い注文と売り注文を、同じ価格で同時に約定させる取引です。約定とは売買成立のことです。
主に株の信用取引で使われますが、先物やFX、CFD、仮想通貨においても使われる方法です。
なぜ、クロス取引をするのかな?
とり子
クロス取引をする理由
信用建玉の返済期限を延長するため
信用建玉とは、信用取引の注文で買った買いポジション、または売った売りポジション=空売りのことです。
信用取引はお金を借りて取引をする制度ですから、信用期日という信用建玉の返済期限があります。たとえば、制度信用取引の信用期日は6ヵ月目と決まっています。また、一般信用取引の信用期日は証券会社がそれぞれ独自に決めています。
もし、この信用期日を過ぎてしまうと、信用建玉は証券会社によって強制決済されてしまいます!
ポジションの返済期限が迫っているものの、長期でホールドしたい、まだ決済したくない事情があるかもしれません。このような場合、そのポジションが、
- もし買いポジションならば、
返済売り注文と新規信用買い注文との、 - もし売りポジションならば、
返済買い注文と新規信用売り注文との、
クロス取引をすることで、古いポジションの信用期日から新しいポジションの信用期日へ、信用建玉の返済期限を延長することができるのです。
ただし、クロス取引の片方はあくまでも返済注文ですから、一旦は利益確定または損切りをすることになります。年度内の通算損益や確定申告の有無など、個々人の事情を考慮して行う必要があるでしょう。
議決権や株主優待の権利をとるため
株を買う目的は、配当金や値動きによる利益以外にも、株主になるという目的があります。
株主であれば、株主総会で投票をすることができますし、株主優待をもらうこともできます。
ちなみに、株主総会の議決権や株主優待をもらうためには、いつでも株主になれば良いというわけではなく、企業ごとに決められた権利日のタイミングに株主である必要があります。
さて、配当や値動きが目的でないにしても、株を買うからには市場の価格変動リスクにさらされてしまいます。
そこで、現物株の買い注文と新規信用売り注文とのクロス取引をすると、
もし権利を取ろうとした現物株が値下がりしても、売りポジションが利益になるので、損と利益で損益が相殺されます。もちろん、逆に現物株が値上がりしても、売りポジションが損になるので、損益は相殺されます。
つまり、株が上げようと下げようと損益は発生せず、価格の変動リスク無しにノーリスクで議決権や株主優待をもらうことができるのです。
なお、現物株や信用買いポジションの値下がりに対して、一部または全部を信用売りポジションを作ってリスクヘッジすることがあります。この信用売り(空売り)のことを「つなぎ売り」と呼びます。
このクロス取引を利用した株主優待タダ取りという手法を紹介した記事はこちらです。よろしければご参考になさってください。
とり子
クロス取引の手数料
株式売買手数料
クロス取引は、買いと売りと2件の注文で1セットです。売買手数料も通常の2倍かかることになります。
空売りの貸株料
信用取引とは、お金を借りて株を買ったり、株を借りて株を売ったりできる仕組みです。ですから、信用買いをしたときは金利を支払わねばなりませんし、信用売りをしたときは貸株料を支払わねばなりません。その金額は、お金を借りる場合と同じで、借りた期間に比例した金額となります。期間の計算は日数単位で計算し、借りた日数分を手数料として支払います。
逆日歩(制度信用の場合のみ)
制度信用取引では、信用買いと信用売りの需要が決まった後から貸株を調達します。ですから、大量の貸株が必要になると、逆日歩という貸株市場での入札コストを支払わねばなりません。逆日歩の金額は、事前に上限を計算することはできますが、実際にその上限までのいくらになるかは事前に予想ができません。つまり、手数料がいくらになるか分からないギャンブル要素がデメリットとなります。
このデメリットを回避する方法が一般信用取引を利用することです。一般信用取引では、証券会社それぞれが管理する在庫の中から貸株を調達します。逆日歩は存在しないため、借りる日数が分かれば、手数料がいくらになるか事前に計算することができます。
クロス取引の配当金
信用売りは配当を支払う
現物株で配当金がもらえるように、信用取引でも信用配当調整金という形で、信用買いなら配当金がもらえます。一方、信用売りでは配当金を逆に支払います。
制度信用の信用売りの場合は、信用買いで受け取る信用配当調整金と同じ源泉徴収済の金額=約80%を支払います。注意すべきは一般信用の信用売りの場合で、配当金の全額=100%を支払わねばなりません。
つまり、現物株と一般信用の信用売りのクロス取引で権利日をまたぐと、一旦配当金の約20%が損になります。しかし、多くの個人投資家は特定口座の源泉徴収ありを選択しているはずです。特定口座の源泉徴収ありであれば、証券会社が自動的にやってくれる年末の譲渡益と配当金の損益通算によって、一時的に発生した損は全額還付されるので安心してください。
とはいえ、年末まで口座残高が減った状態になることはデメリットといえるでしょう。
クロス取引の注意
違法行為にならないように注意
まず、クロス取引は、違法となる仮装売買や対当売買と解釈される恐れがあるため、むやみに行ってはなりません。
次の2点は必ず守りましょう。対当売買といった違法行為とみなされる場合もあります。
- 寄り付きにやる(前場または後場)
→ザラ場でクロス取引を行ってはいけません - 同じ株数でやる
→買いと売りが違う株数でクロス取引を行ってはいけません
また、ほとんどの個人投資家は複数の証券会社を開設していると思います。だからといって「A証券で買ってB証券で売る」全体で見たらクロス取引だろ?という、他の証券会社とのクロス取引はやめた方がよいです。証券会社では「よそはよそ、うちはうち」で売買の審査します。また、個人投資家の注文情報を他の証券会社と共有することはありません。
クロス取引の失敗に注意
クロス取引の失敗の代表は、片方の注文の自動キャンセルに気づかない失敗です。もし、注文取消に気づかず、もう片方の注文だけが約定してしまうと、片方のポジションだけを持つことになります。株価はお構いなしに変動しますので、想定外の損を食らうかもしれません。
主に、信用売りが自動的にキャンセルされてこの失敗が起きます。これを防ぐには、約定日の朝8時過ぎに買い注文をする、あるいは、あらかじめ注文していたクロス取引が取り消されていないかチェックする必要があります。注文キャンセルの原因は次の2ケースがあります。
抽選に外れる
一般信用売りの場合、どこの証券会社でも注文受付の在庫に上限があります。注文の受付が抽選式の証券会社(カブドットコム証券等)は、抽選に当たらないと注文が成立しません。必ず、注文の抽選が当たったことを確認してから買い注文をしましょう。
信用取引の規制が入る
制度信用売りの場合、あまりにも信用売り=空売りが増えてしまうと、信用売りの申込停止措置(=注文自体を受け付けない措置)が、稀に約定日「当日の朝」決まることがあります。すると、クロス取引の信用売りの注文だけが証券会社によって自動的にキャンセルされてしまいます。なお、この規制は信用買いでもありえますが極めて稀でしょう。
コメント
はじめまして。株主優待のクロス取引を考えている初心者です。基本的なことをお聞きして失礼いたします。
一般信用売りの場合、「配当金は100%支払わなければならない。」と説明がありました。私の場合、「源泉徴収なし」で証券会社と契約しています。確定申告を自分でするのですが、「源泉徴収あり」と比べて何か煩雑な手続きや不利益なことがありますか。教えください。
お問い合わせありがとうございます。
まず、配当金は源泉徴収の有無関係なく、徴収後の金額が支払われる仕組みです。
そして、信用取引の買い、売りによる配当金(信用配当落調整金)の受取りと支払いは、
制度信用、一般信用に関わらず、配当益ではなく「譲渡損益として」取り扱われます。
確定申告をなさるということであれば、
・配当の源泉徴収額
・株売買による損益+信用取引による配当金の損益=譲渡損益
こちらを通常通り記入して申告するわけですから、
納税または還付で損得なく処理されますし、特別な手続きは要らないはずです。
ちなみに、わたしは法人口座(一般口座の源泉徴収なし)で
似た処理をした経験しているのですが、
配当金は約80%で受け取り、一般信用売り分の100%は支払い、
確定申告(決算)までに、その差は「損として帳簿に残る」ことになります。
つまり、先にお金を取られるが、後で還付される扱いになります。
以上ですが、お答えになっていますでしょうか?
ご確認よろしくお願いいたします。
お世話になります。とても参考になる記事で感謝しています。
初心者なものでザラ場中のクロスについては知りませんでした。違反にならないように注意したいと思います。質問なのですが、ザラ場、例えば前場に一般信用の在庫を少数見つけたときに(価格変動のリスクは承知の上で)売り注文だけは出して良いと思いますが、買い注文はあとで出しても違反にならないのでしょうか?
時間を空けて、前場のザラ場中、引成、後場の寄り付き前などタイミングなどあるかと思いますがどれもダメなんでしょうか?
よろしくお願いします。
ゆうさま
ご覧くださいまして
コメントくださいまして
ありがとうございます。
ご質問の件ですが
後から注文しても、もちろん問題ございません。
時刻日時も自由です。
クロス取引は、買い→売り、売り→買い
どちらであっても、たとえコンピュータでも
1つずつしか注文ができません。
確かに、ザラバ「でない」方が
自由に注文ができるイメージはあります。
しかし、以下をエピソードをお聞きくだされば、と。
クロス取引に関わらず、
普通の注文・トレードでも
実は、同じ問題をクリアしなければなりません。
そもそも、どんな取引であっても
・約定意思がある
・株価操作の意図がない
・↑の意図がないとしても市場への影響を配慮している
といった何とも曖昧なルール「のようなもの」がございます。
私が初心者だった頃、
たった1単元の注文を取り消しただけで
「この注文は何ですか?」と電話が来たことがあります。
それは何故かというと
1日の出来高がほとんどない、注文もほとんどない銘柄での
たった1単位の注文だったからです。
わたしの注文が、その銘柄の出来高からすれば
大きい割合だった!とコンピュータが機械的に抽出したのでしょう。
大勢が多数の注文を出して売買されているような銘柄なら
あなたの注文の影響は皆無に等しいし、知らないよ・・
となる一方、逆は神経質にならねばなりません。
これは1例なのですが、
私も法律の専門家でも証券会社の中の人でもありませんので
ハッキリとした答えはできませんが
ニュアンスが伝わればと思います。
クロス取引の場合、
ザラバに後から注文を追加したとしても
後ほど板寄せ(すぐに注文が成立しない時間帯)等のタイミングで
成行に訂正したい!という「約定の意思」はありますよね。
ここが大事です。
もちろん、自分の事情で気が変わって取消しても
普通は問題にはならないと思います。
しかしながら、疑わしいことはできるだけ避けたいでしょうから
目的の銘柄の平均的な出来高だけは、
気にしておくことをおすすめします。
以上若干小難しい内容になりましたが、
ご参考になりましたでしょうか。
よろしくお願いいたします。